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プレスリリース 2005年12月7日
UNDP、「国連人間の安全保障基金」を通じた日本の支援により、『中央アジア人間開発報告書』を発表 ─ 中央アジアにおける地域統合の必要性を訴える

 国連開発計画(UNDP)は本日、『中央アジア人間開発報告書─障壁を取り払う:人間開発と人間の安全保障のための地域協力─』を発表した。本報告書によれば、中央アジア5カ国の国民所得は、今後10年間で倍増する可能性もあるという。
 本報告書は、中央アジアが直面する様々な課題 ─貿易コスト、環境破壊、格差の広がり、移民の増加、HIV/エイズの感染拡大、さらには脆弱なガバナンス(統治体制)─ に対して包括的な分析を行っている。
 近年では地域協力に向けた進展も見られるものの、国境によって生じている障壁は人々の生活に大きな悪影響を及ぼしているという。本報告書は、中央アジア諸国─カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン─の協力を強化すれば、今後10年間で国民所得の50〜100%増が予想されるなど、政治的・経済的に計り知れない成果が期待できるとしている。しかし、協力が行われなかった場合、所得配分、公共サービスおよび生活水準の不均衡状態が続き、社会不安を引き起こす経済危機と行政の腐敗という悪循環が招かれかねないとしている。
 本日、外務省との共催で、東京で開催された『中央アジア人間開発報告書─障壁を取り払う:人間開発と人間の安全保障のための地域協力─』発表記念シンポジウムの開会挨拶において、カルマン・ミジェイ国連事務次長補およびUNDPヨーロッパ・CIS局(RBEC)局長は、「同報告書は、域内協力によって中央アジアおよび近隣諸国の国民および経済に速やかにもたらされることであろう利益を明確に特定している」と述べた。「同地域の全域において貿易、交通と運輸、そして水とエネルギーの効率的管理が実現すれば、大きな利益がもたらされるだろう。同時に、自然災害、薬物の不正取引および鳥インフルエンザなどの疫病への対策における協力体制も不可欠である」とも述べている。

報告書による中央アジア各国政府への提言は以下の通り。

  • 域内輸送網の拡充を図る。交通、通関、および国境管理体制の簡素化・調和を図る。世界貿易機関(WTO)に加盟する。
  • 国家レベルでインフラのより適切な価格設定と効果的な管理に努める。域内に水・エネルギー共同体(Water and Energy Consortium)を設立し、効率的利用の拡大、人間開発および域内安定化のために、域内の豊富な水・エネルギー資源を管理する。
  • 環境破壊の恐れのある地域のリスクに協働して対処し、地域、国家および市民社会による環境団体を強化する。
  • 自然災害、特に大規模な地震および洪水などへの対処に向け、地域計画を策定する。
  • 各機関の調整および規制の実施と開発という両アプローチ間のバランスを図ることによって、薬物の不正取引を統制する。
  • 保健衛生、教育および文化の諸分野における政府、学会および市民社会団体の域内ネットワークを強化する。
  • 地域機関の権能の明確化、強化を図る。

 本報告書の主執筆者であるブルッキングス研究所のヨハネス・リン氏は、「地域協力は必要不可欠であるが、国内改革と歩調を合わせて行われるべきである」と述べている。「脆弱な投資環境、自然災害の脅威、疫病やテロリズムなどの中央アジアが直面する諸問題は、汚職、脆弱な行政能力および説明責任の欠如によって改善を妨げられている。」
 中央アジア―カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン―にはおよそ6000万人が暮らしている。広大なユーラシア大陸の中央に位置するこれらの中央アジア諸国は、その地理的・経済的重要性、天然資源および人的資源、欧州とアジアを結ぶ貿易と輸送の経由地としての可能性、また、内包する不安定な政治情勢ゆえに、今日、国際社会の大きな注目を集めている
 本報告書は、地域機関及び国際的なドナーに対し、国境を越えた人々の往来、貿易および投資が、不当に遅滞させられたり嫌がらせを受けたり余計なコストを強いられることなく行われるよう、互いを分断している障壁を低減し「人間の顔をした国境」を創出できるように5カ国を支援するべきである、と勧告している。ドナーに対しては、交通と運輸、HIV/エイズ、災害対策や薬物の不正取引に関する、地域全体による取り組みへの支援を強化すべしという要請がなされている。さらに本報告書は、地域協力推進のためのアジェンダを支援するために、中央アジア担当の国連特別代表の任命を提案している。

主要な課題と提言

 ソビエト連邦の解体は中央アジア地域に深刻な経済後退をもたらした。これは、総額400億ドルとも試算される支払い制度、予算に関わる支援および投資補助金が消滅し、独立国家共同体(CIS)間の輸出額が1990年から92年の間に3200億ドルから200億ドルまで急激に落ち込んだことによる。本報告書によれば、1991年から95年の間に、貧困率および失業率は上昇し、生産性は低下し、5カ国における社会保障および教育分野への支出は、急激に下落した。2003年の人間開発指数(HDI)を1992年と比較したとき、一カ国を除くすべての国々で値が低下している。
 しかし一方で、同地域は1998年以降、ロシアや中国の急速な経済成長、隣接するアフガニスタンの状況改善、エネルギー価格の上昇およびいくつかの中央アジア諸国における経済改革の進展等に後押しされ、著しい復興を遂げている。本報告書は、これらの進歩を持続し、さらに進展させるためには地域協力が不可欠であると論じている。利益の最大化のためには域内のすべての国々が協働する必要があるが、たとえ協力の輪が幾つかの国々に留まったとしても、やはり利益はもたらされるであろうし、孤立を選んだ国々には、取り残されることのリスクが示されることになるであろう。

貿易と投資

 中央アジア諸国は周囲を陸地に囲まれ、港湾や市場から遠く離れている。このような中央アジアの広域輸送網の劣悪な条件と、運輸の障壁は、諸国内における貿易および主要な海外市場向け輸出のコストと時間を倍増させている。また、汚職は貿易と投資の妨げとなっている。ある調査によれば、頻繁に贈賄を行っている企業は30%以上にのぼるという。「企業の年間利益の3.3%が不透明な支払いに消えている(これは旧共産圏のEU加盟8カ国の約2倍に相当する)」という。関税、交通と運輸にかかるコストを半減させれば(これは域内協力を推進させるための主要分野である)、2015年の実質GDPは、カザフスタンで20%、キルギスタンで55%増加し、とりわけ貧困層における消費と雇用の増加が実現されるであろう。

天然資源

 本報告書は、「中央アジアにおける水、エネルギー、および環境分野は不可分な結びつきを有し、協調行動を必要とするような域内全体にかかわる多面性を孕んでいる」と述べている。域内を流れる広大な河川と灌漑ネットワークは同地域の国々を結んでおり、国境を跨ぐエネルギー・パイプラインおよび輸送網の開発・維持も待たれている。また、流域上流の発電用の水利用は下流の農業用の水利用と競合関係にある。そして、かつて近隣諸国と共有されていた天然資源システムはいまや新たな国境線によって分断状態にある。より効率的な灌漑および取水設備を確保することにより、年間17億5000万ドルに達する農業生産分野における損失を削減し、ひいては農業従事者の所得を向上させることができる。灌漑のための大量の取水は、特にアラル海において生態系の大規模な破壊を招いている。そのほかの環境に関する「ホット・スポット(注目すべき課題)」としては、キルギスタン、タジキスタン、ウズベキスタンのウランおよび有毒金属の鉱山から流出する廃棄物が挙げられる。
 本報告書は国家に対して、天然資源の管理を向上させ、天然資源の利用と保護にかかわる主要問題について互いに協力し、国境を越えた水、エネルギー、および環境問題を解決するためのより広範な共同体を助け、さらにはこれらの問題に取り組む市民社会団体に支援を提供するよう要請している。地域機関に対しては、天然資源管理への明確な権能の付与、「水・エネルギー共同体(WEC:Water and Energy Consortium)」の創設、そして国際社会の支援を得ての地域の学界および市民社会ネットワークの強化を勧告している。加えて、同地域の長期的な天然資源問題に関する調査研究の拡充と、多くの環境に関する注目すべき課題への対処が早急に求められている。

自然災害

 中央アジアは、地震、洪水、地滑り、雪崩など、20種以上の様々な自然災害の危険に脅かされている。主要な災害による年間経済損失は、タジキスタンで国内総生産(GDP)の70%、キルギスタンでは20%にもおよぶ可能性がある。中央アジアの主要都市の多くは、地震発生率の高い地域に位置している。近年、世界各地で地震と洪水の発生によって多くの人命が失われたことに鑑み、本報告書は中央アジアに対し、地域の災害への備えを強化するよう勧告している。まず、国家レベルでの取り組みは、法整備と能力開発、市民社会組織および地域社会の参加の促進、そして適切な資金投入を意味する。地域レベルでは、早期警戒センターの設置を含め、地域機関に対して災害への備えと対応の権限付与が必要とされる。国際レベルでは、救助だけでなく備えにおいてもドナーからの支援が必要とされる。

薬物の不正取引およびテロリズム

 中央アジアは欧州、ロシアおよび中国市場への主要な薬物の不正取引ルートである。「タジキスタンでは大量のヘロインが接収されているが、薬物不正取引の問題は、5カ国に共通した特有の問題である」と本報告書は述べている。毎年、タジキスタンを経由するヘロインは最大100トンと推定されているが、これは北米および西欧における年間推定需要に匹敵する。中央アジア政府はこの薬物の不正取引に対し、規制ばかりでなく開発の側面からも解決手段を模索し、薬物統制への取り組みを政府の改革努力に結びつけるとともに、彼等のイニシアティブに市民社会を取り込む必要がある。
 本報告書はまた、中央アジアで活動する様々な過激主義、テロリスト、犯罪ネットワークについても、「国内の政治システムと域内貿易のインパクトを不安定化させかねない」懸念が拡大しつつあるとしている。テロリズムは資金洗浄、薬物の不正取引、人身取引および無法状態と結びついている。テロリストの脅威は、弾圧をもって野党に対応するという中央アジアの傾向に拍車をかけている。しかし報告書は、弾圧は社会的・政治的な緊張を高めることによって、対立を助長する可能性が高いとしている。政治的に異なる意見への弾圧は安定を確保に寄与してこなかったばかりか、国民の急進化を招いてきた傾向がある。

人の移動と保健衛生

 本報告書によれば、人の移動は地域全体にとって大きな意味を持っている。キルギスタン政府がロシアにおけるキルギス人居住者を2万人と推計している一方、非公式な情報筋はこの数字を、キルギスタンの全人口の10%に相当する20万から50万人と試算している。国外への人の移動による影響は肯定的な側面をもつ。例えば、タジキスタン政府によれば、同国の国内総生産の20%は海外移住者からの送金によって占められるという。ロシアとタジキスタンの間で2004年に締結された協定により、移民は健康保険に加入できる労働者として法的に登録されるようになったが、これは移民を送り出す国と受け入れる国の双方に資する積極的な進展であろう。
 重要な問題の一つとして挙げられるのが、結核やHIV/エイズなどの伝染病の増加である。報告書によれば、中央アジア諸国における結核の発生数は、1990年に比べて2倍以上に増加した。ほとんどは貧困層や若年層であり、毎年国内総生産の0.5%から0.8%に相当する生産性の喪失が招かれているという。HIV/エイズの感染者数は、2000年から2004年の間に急激に増加し、2004年には8078件が報告された。2005年には、地域機関の協力を得た国際的なドナーによってHIV/エイズ対策プロジェクトへの資金拠出が行われ、域内全体における同様の取り組みの規範としての役目を果たしている。

政治的および制度的側面

 本報告書は、中央アジアの地域協力を阻む政治的および制度的障壁の存在を指摘している。すべての政治経済的な利害関係者が地域協力によって利益を得られるわけではない。国家の上層部が協力によって利益を得られる場合であってさえも、地域協力の実行は不利益を蒙る関係者によって阻止されるであろう。腐敗、脆弱な行政能力および説明責任の欠如が改革の妨げとなっている。地域社会からの参加が拡大すれば貧困の境界線に置かれている人々の声がもたらされ、それが前進への助けとなることであろう。
 本報告書は、中央アジアにおける包括的かつ地域全体による協力は、政治的および制度的制約により当面は実現しない見通しであるが、提起された問題の多くにおいて進展は可能であるし、また望まれている、と結論付けている。中央アジアの近隣諸国および国際的なパートナーは、中央アジアの安定と繁栄、そして団結によってもたらされる強力な共通利益の実現に向けて協働するべきである。関係者間の利害の相違や分断的な支援が、これまで効率的な国際支援の妨げとなってきた。近隣諸国および国際的なパートナーは、政治経済の進展にむけた支援において、共通の基盤を見出すべきである。

 UNDPの人間開発報告書「障壁を取り払う:人間開発と人間の安全保障のための地域協力」は、伊藤信太郎 外務大臣政務官、武見敬三 衆議院議員、ジョセフ・B・アイケンバーガー アジア開発銀行副総裁、デニス・デトレイ 世界銀行中央アジア国別担当局長、ヨハネス・F・リン ブルッキングス研究所ウォルフェンソン・イニシアティブ専務局長、『中央アジア人間開発報告書』プロジェクト・リーダーおよび主幹、カルマン・ミジェイUNDP総裁補およびヨーロッパ・CIS局長などの臨席のもと、東京で発表された。

報告書の入手先は以下の通り。
United Nations Publications
2 United Nations Plaza
Room DC2-853
New York, NY 10017, USA
電話: +1 212 963 8302
Fax: +1 212 963 3489
E-mail: publications@un.org
URL: https://unp.un.org/

報告書はUNDPヨーロッパ・CIS局(RBEC)ウェブサイトから無料でダウンロードできます。
http://europeandcis.undp.org/?wspc=CAHDR2005%20

『中央アジア人間開発報告書』(概要)

以上

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