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シンポジウム:
「途上国における包括的(インクルーシブ)ビジネスシンポジウム-貧困層を対象にした実践的なビジネス戦略」

日時:2010年12月14日(火)
場所:エリザベスローズ国際会議場 (国連大学ビル5F)
概要:

2010年12月14日(火)、UNハウス・エリザベスローズ国際会議場にて、「途上国における包括的(インクルーシブ)ビジネスシンポジウム」(主催:国連開発計画(UNDP)、後援:外務省、経済産業省、日本経団連)が開催されました。

本シンポジウムでは、外務省佐渡島志郎国際協力局長のご挨拶に続き、ヘンリー・ジャクリンUNDPパートナーシップ局民間セクター部長による基調講演と、サバ・ソバーニUNDPパートナーシップ局民間セクター部Growing Inclusive Markets Initiative プログラムマネージャーによる 「包括的ビジネスのグローバルな成功事例−UNDPのプロジェクトからの教訓」の発表が行われました。

1.佐渡島外務省国際協力局長による冒頭ご挨拶では、本年9月に開催されたMDGs国連首脳会合においてMDGs達成に向けた民間企業の役割の重要性が確認された点が紹介され、民間企業とODAの連携による途上国の持続的経済成長支援の必要性が述べられました。日本政府は、2008年に開催された第4回アフリカ開発会議(TICADIV)において民間企業によるアフリカ投資への積極的支援を発表しています。また具体的な取り組みとして、「BOPビジネス協力準備調査」の実施、草の根・人間の安全保障無償資金協力による企業とNGO連携の促進、JICA海外投融資の再開等が紹介され、意欲ある日本企業の海外展開を支援していく方針が示されました。最後に、多くの日本企業によるMDG達成に向けた取り組み参加への期待が述べられました。

2.基調講演は、UNDPで民間セクターの開発や連携を主管している民間セクター部から、ヘンリー・ジャクリン部長が行いました。要旨は以下の通りです。

  • 現在世界では約26億人が1日2ドル以下で生活し、モノやサービスへのアクセスが限られているものの、合計すればそれは12兆ドルの収入を得ている未開の市場であり、消費、生産、イノベーションの大きな潜在的可能性を持っています。
  • 途上国開発における企業の役割は、過去数十年の間、寄付・社会貢献活動からCSRへ、そして新たなビジネス機会を創造する包括的市場(インクルーシブマーケット)の促進へと、大きく変遷してきました。UNDPは今回この包括的ビジネスモデルの事例を調査・分析した報告書「貧困層を対象にしたビジネス戦略」の日本語版となる『世界とつながるビジネス-BOP市場を開拓する5つの方法』を刊行しました。
  • インクルーシブビジネスの成功例として、ケニアの携帯電話を利用した金融サービスを行うM-PESA社や、マイクロファイナンスにより太陽光発電を貧困層に普及したインドのSELCO社などの事例があります。
  • 依然として途上国でのビジネスには様々な障壁、例えば 1)政策や規制の脆弱性、2)民間企業の政策対話への参加障壁、3)技能・技術・知識不足、4)資金アクセスの不足、5)バリューチェーンと市場アクセスの脆弱性と不均衡、などが存在します。
  • 民間企業が成功する鍵は、これらをよく理解し、自社の商品がどのように市場に適合するのか、長期的な視点で経験を積み、政府、市民社会、コミュニティと連携してビジネスモデルを構築していくことが必要です。
  • 日本は歴史・文化的に企業市民活動の素養があること、既に多くの企業が途上国市場でビジネスを展開していること、ものづくりが対象市場のニーズに応じて進化してきたこと、政府が民間と協力して産業政策を策定してきた背景などから、日本企業によるBOP市場発展貢献への高いポテンシャルがあります。
  • UNDPでは、1)政策・制度の構築、2)貧困層向けバリューチェーンの統合、貧困層向け商品・サービス開発促進、3)起業家育成、4)包括的市場開発を支えるCSRの促進、を民間セクターとのパートナーシップにおける優先分野としています。UNDPと日本政府、民間企業のさらなる連携強化を期待しています。

3.引き続き、サバ・ソバーニUNDPパートナーシップ局民間セクター部Growing Inclusive Markets Initiative プログラムマネージャーから「包括的ビジネスのグローバルな成功事例−UNDPのプロジェクトからの教訓」の発表が行われました。
 2004年コフィ・アナン国連事務総長(当時)の提唱により、UNDPでは貧困層に貢献するビジネスに関する研究が本格的に開始され、MDGsの達成に寄与する民間企業の活動に関する調査が行われています。Growing Inclusive Markets (GIM)と称するこのUNDPの調査・啓発イニシアチブでは、貧困層をビジネスサイクルに取り込むことでビジネスが得られる以下のメリット、 1)貧困層をサプライヤー、消費者、従業員、事業者として取り込むことで得られる利益、2)イノベーションの推進、3)新規市場開拓、長期的ロイヤリティ取得、4)労働力となる人材育成と確保、5)サプライチェーンの強化、を明らかにしており、それぞれ詳細の説明が行われました。一方こうしたビジネス活動は貧困層には、基本的なニーズの充足、生産性の向上、収入の増加、事業の改善、エンパワーメントといったメリットがあり、双方にとってWin-Winの関係を構築することで、MDGsの達成にも寄与するものであると解説されました。
 UNDPが支援した事例としては、フィジーのマイクロファイナンス事業(ANZ Investment Bank社)や、マダガスカルで抗マラリヤ薬原料植物の持続的栽培を支援した事業(Bionexx社)などが紹介されました。また一般的事例としては、貧困層を労働者として雇用し所得を創出するコカ・コーラのビジネスモデル等も紹介されました。
 ソバーニ氏は、効果的なビジネスモデル構築には、ビジネスの対象となる貧困層のニーズの的確な把握が不可欠であり、そのためには政府や市民社会、または他の企業とのパートナーシップが重要であると述べ、途上国市場の知見とネットワークを豊富に有するUNDPとの連携について説明しました。

4.シンポジウムの後半では、村田俊一UNDP駐日代表の司会により、ヘンリー・ジャクリン UNDP民間セクター部長、小山智 経済産業省貿易経済協力局通商金融・経済協力課長、青木雄一 三井物産株式会社理事 環境・社会貢献部長、中尾洋三 味の素株式会社CSR部専任部長の4名によるパネルディスカッションが行われました。

 冒頭のプレゼンテーションにおいて、経済産業省の小山課長からは、政府のBOPビジネス支援に関し3つの点を中心にお話頂きました。まず1点目として、BOPビジネス支援の背景と意義について、産業政策及び経済協力政策の両視点から説明されました。産業政策の視点からは、日本企業によるネクストボリュームゾーンとして見込まれる途上国新規市場開拓と、事業のイノベーション促進の契機として期待している旨述べられました。また経済協力政策の視点からは、途上国における多くの課題(貧困、保健等)に対しビジネスとも連携して取り組むことで、日本・途上国・援助団体のWin-Win-Winの関係構築の可能性があることが説明されました。2点目として、同省による現在及び今後の取組みについて説明され、各種セミナーの実施、JETROを通じた潜在ニーズ調査、具体的ビジネスの形成支援、各種調査・普及啓発事業の実施等の活動が紹介されました。最後の点として、今年10月に設立された情報提供、マッチング支援、相談窓口機能をもつBOPビジネス支援センターについて説明され、今後これらの活動を更に強化していく意向が示されました。

 続いて三井物産株式会社の青木雄一理事 環境・社会貢献部長からは、UNDPとのパートナーシップによるモザンビークでの事業が紹介され、太陽光発電や灌漑ポンプの導入による農業生産量の増加とそれに伴うコミュニティの所得の増加・経済的な自立を促進するプロジェクト概要が説明されました。同社の資源・エネルギー分野が中心のアフリカビジネス展開に際し、事業地域における適切なプレゼンスが重要であること、そのためにはMDGsへの貢献が不可欠であるという認識が発端となり、社会貢献と自社が得意とするビジネスを組み合わせたインクルーシブビジネスへの足がかりを、UNDPとの協力で推進してきた経緯が説明されました。また三井物産とUNDPがお互いの得意分野を補完しあっている点が述べられました。
 続いて味の素株式会社の中尾洋三 CSR部専任部長からは、自社の途上国における調味料ビジネスについての説明が行われました。途上国でのビジネスで直面する課題−物流に必要な社会的インフラの欠如等を、消費者のニーズに応じた商品の適応(Affordability)と現地の人の雇用による流通網の開拓(Availability)などにより切り開いたビジネスの経緯や、資源循環型生産を行う農業分野での連携(化学肥料からの転換による収量の増加など)、栄養環境の改善を目指すガーナでのプロジェクトなど、事業を通じて途上国に価値を提供するビジネスモデルが紹介されました。

 各パネリストによる取り組み事例の紹介に続き、2つのトピックについてディスカッションが行われました。まず1つ目は、途上国でいかに持続可能なインクルーシブビジネスを行うか、という課題についてです。青木部長からは、現地では様々なパートナーがアクターとして関わるため、最終的に目指すゴールは同じでも、それぞれのアクターは文化、利害、得意分野におけるスピード感が異なるため、これらの違いを認識して調整することが重要であると述べました。さらに中尾部長は、現地の宗教や、土着のコミュニティの仕組みを理解することの重要性を指摘しました。
 これに対し小山課長からは、企業からよく聞く話として、日本の本社で検討された製品仕様、仕組み、考え方などを、現地化してニーズに適応させることが成功のカギであると述べられました。またBOPビジネスの展開は企業の上層部のコミットメントが重要であることから、わかりやすい形で情報を伝えていくなど、この側面に様々な形で支援ができればと考えていると述べました。
 また、中小企業によるBOPビジネスの展開については、事業の幅や資金力の面で困難はあるものの、機動性やユニークさといった独自の強みを活かせる分野はあり、成功の機会は多いという見方が示されました。調査によれば、国内に残っている中小企業より海外に展開する中小企業の方が国内での雇用を増やしているという結果がでており、中小企業も海外展開に積極的にチャレンジしてほしいという期待が示されました。ジャクリーンUNDP部長からは、日本の中小企業はイノベーションのヒストリーがあり、柔軟な対応ができるのではないかと述べられました。

 2つ目のトピックとして、各パネリストが期待しているインクルーシブビジネスの今後の展望についてディスカッションが行われました。中尾部長は、ガーナのプロジェクトでNGO、コミュニティ、大学、国際機関など多くのセクターと連携した経験を通じ、社会課題へのアプローチの新しいビジネスモデル構築と、より効率的でスピーディな市場開拓の可能性が見えてきたので、今後もこうした連携を拡大していきたいと述べました。
 青木部長は、モザンビークのプロジェクトはビジネスというより戦略的CSRであり、同社の中心ビジネスである資源・エネルギーの分野においてもこうした取り組みにつながっていく様、パイロット的な事業と位置付けていると説明しました。ビジネスの持続可能性はすなわち社会の持続可能性であり、それを確保するためにはMDGs達成への貢献、インクルーシブビジネスの検討が必須であるという考えが述べられました。
 最後に小山課長は、BOPビジネスへの取組の拡大が、最近の日本の企業人の内向き志向の転換や、途上国における雇用や所得の創出を通じた社会安定につながることで、日本の産業や社会の安定的発展に資することを期待していると述べました。

 続く質疑応答では、企業関係者を中心に満席となった会場から、途上国での事業を実施するうえで経験した文化的違いとその克服方法、企業でもNGOでもない個人の役割やその支援、CSRや環境部署の役割などに関する質問が出され、活発な議論、知識や経験の共有が行われました。会議終了後のレセプションでは、出演者と参加者の歓談の場も設けられ、盛況のうちにシンポジウムは終了致しました。