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2008年10月30日
エリザベス・ローズ国際会議場

イベント 2008年10月30日 東京
シンポジウム報告
「貧困層を対象としたビジネス戦略 報告書発表記念セミナー」

 10月30日、東京都渋谷区のUNハウス、エリザベス・ローズ国際会議場において『貧困層を対象としたビジネス戦略』報告書発表記念セミナー(主催:国連開発計画(UNDP)、後援:外務省、国際協力機構(JICA))が開催されました。(プログラムはこちら)

1.セミナーでは、外務省木寺昌人国際協力局長の御挨拶に続き、ブルース・ジェンクス国連事務次長補兼UNDPパートナーシップ局長による基調講演と、アルン・カシャップUNDPパートナーシップ局民間セクター部上級顧問による報告書発表が行われました。

 本年5月の第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)開催時にアフリカ審議官を務められた木寺局長からは、TIACD IVの中心議題のひとつである経済成長の促進に向けて、日本政府より提示された、民間投資と政府開発援助(ODA)を組み合わせた「官民連携」の考え方が紹介されました。


ブルース・ジェンクスUNDP パートナーシップ局長

 UNDPで民間セクターを含むパートナーシップ戦略全般を統括するジェンクス局長は、『貧困層を対象としたビジネス戦略』報告書(以下、GIM報告書)諮問委員会の委員長を務めました。基調講演において同局長は、報告書の題名にもある「包括的な市場育成(Growing Inclusive Markets:GIM)」というコンセプトを紹介しました。同コンセプトが提唱されるに至った背景には、1)グローバル化の進展により、民間による投資・経済活動は、公共投資やODAをも凌ぐ経済的影響力をもつようになり、貧困層にとって雇用および医療等の社会サービスの主要な供給源となっていること、2)このような状況下、開発に携わる者も、企業が貧困削減に果たす役割を認識し、民間セクターとのかかわりを考慮した貧困削減計画を立案・実施する必要に迫られていること、3)貧困層向けの市場は、競争不在に起因する高価格設定により、同等の物品サービスであっても富裕層市場の2-10倍に上る価格を消費者に強いていること(市場の歪み)、等が挙げられます。GIMイニシアティブは、貧困層を対象とするビジネスによって貧困削減と事業収益の双方を達成できるとし、民間部門に貧困層市場への新規参入を促しています。ジェンクス局長は、GIM報告書で明らかとなった貧困層を対象としたビジネスの5つの阻害要因、およびそれらを克服するための5つの戦略からなるマトリックスを紹介し、途上国において豊富なビジネス経験を有する日本企業に対し貧困層を対象としたビジネスへの参画を呼びかけました。


アルン・カシャップUNDP パートナーシップ局
民間セクター部上級政策顧問

2.引き続き、アルン・カシャップUNDP民間セクター部上級政策顧問がGIM報告書に収録されている3つの事例を解説しました。
 まず、コンゴ民主共和国におけるセルテル(Celtel)社の活動を紹介し、同社が紛争後の不安定な社会情勢の中で、いち早くモバイル・バンキングのニーズを見出して携帯電話によるサービスを開始し、紛争後の経済復興に貢献した事例を説明しました。携帯電話市場の拡大は、元民兵や児どもの兵士に新たな生計手段を提供したほか、農民はテキスト・メッセージ機能を利用して農作物の価格情報を入手し、適正価格で取引を交渉できるようになりました。
 2つめの事例として、インドの衛生施設事業が紹介されました。Slabh Internationalによるこの事例は、政府と企業が連携し事業を拡大したことに特色があります。企業は政府から補助金と融資を受けて簡易公衆トイレ施設を建設し、利用者から少額の料金を徴収して施設運営に役立てました。事業は次第に拡大し、140万の家庭用トイレと6,500の公衆トイレが建設され、約1,000万人が衛生的なトイレを利用できるようになっただけではなく、学校などにおける共同トイレ施設の建設、また女性の雇用の促進などにも貢献しました。
 最後に、過酷な自然条件下で暮らす農家の人々のニーズを満たし、簡素かつ強靭で、さまざまな用途に対応できる低価格コンピューターを開発した清華同方社の事例が紹介されました。農村地域の住民は、このコンピューターを使って、農業技術の情報を入手し、遠隔教育、職業訓練が受けられるようになりました。
 カシャップ民間セクター部上級政策顧問は、これらの成功事例は貧困層を対象としたビジネスの機会の存在を例証しており、効果的なビジネスモデル構築のためには、潜在的顧客である貧困層との対話を通じたニーズの的確な把握と政府との連携が重要だと述べました。

3.セミナーの後半では、村田UNDP駐日代表の司会により、ジェンクス局長、新川雄司 キーコーヒー株式会社専務取締役、齋藤守雄 ヤマハ発動機株式会社コーポレートR&D統括部アクア環境事業推進部長、、村橋靖之 日本貿易振興機構(JETRO)企画部事業推進主幹の5名によるパネルディスカッションが行われました。

 冒頭のプレゼンテーションにおいて、キーコーヒー株式会社の新川専務取締役は、キーコーヒーがインドネシアで実施するトアルコ・トラジャ・コーヒー事業を紹介し、直営農場事業と住民栽培事業の2つのアプローチを通じ、現地スタッフの能力強化とを図りつつ、今日の生産・販売体制を確立させた経緯と、持続可能な環境保全型農場の実現に向けた取り組みを説明しました。続いてヤマハ発動機株式会社の齋藤部長は、同社がアジア各地で展開するクリーン・ウォーター事業の一環としてインドネシアで実施する浄水プロジェクトを紹介しました。水道のない地域に浄水プラントを建設し、自治運営を通じて地域へのクリーンな水供給を目指す同プロジェクトは、ミレニアム開発目標(MDGs)にも掲げられた安全な飲料水へのアクセス改善への貢献が期待されます。

 これら企業側からのビジネスモデルの紹介に続き、JICAとJETROという公的支援実施機関の立場から、民間企業の活力を利用した貧困削減・経済成長のフレームワークと具体例が提示されました。JICAの大貝室長は、公共と民間が協力して貧困削減・持続可能な開発を進めるための5つの形態、すなわち1)周辺環境整備、2)PPP(官民連携)インフラ、3)政策・法制度改善、4)企業の社会的責任(CSR)、BOP(底辺層)ビジネスなどの新たなフロンティア、5)広報での連携、を紹介しました。また、UNDPとのマルチ・バイ協力事例として、イラク北部の電力セクター復興のための円借款事業推進における業務委託(関連プレスリリース)にも言及しました。一方、JETROの村橋主幹は、アフリカにおける日本企業との連携事業を紹介しました。JETROはTICAD IVのフォローアップとして、貿易を通じたアフリカ諸国の経済成長を支援する計画です。最近の支援の具体例として、マラウイのプーアール茶やケニアの切り花ブーケなど、日本企業が輸入需要を見込んでいる地場産品に対して改良・技術指導を行う「開発輸入企画実証事業」、および進出日系企業への支援を通じた人材育成が紹介されました。

 続く質疑応答では、主に企業からの参加者で満席となった会場から、CSRと事業の関係性や運営方式、日本企業による貧困層を対象としたビジネスの展望など、多岐にわたる質問がパネリストに投げかけられ、活発な議論が行われました。


パネルディスカッションの様子