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人間開発報告書2005年版 ─ 「岐路に立つ国際協力:不平等な世界での援助、貿易、安全保障」
UNDP『人間開発報告書2005』 プレスリリース IV

人間開発報告書、貧困と武力紛争の悪循環を断つよう国際社会に訴える
執筆陣は、紛争後の介入は平和維持の取り組みであると同時に開発問題でもあると語る

2005年9月7日 ━ 国際連合本部

 2005年の国連開発計画(UNDP)『人間開発報告書』は、貧困国における武力紛争の悲惨な人的被害と、貧困がさらなる暴力の温床となっている事例を紹介している。報告書執筆陣は、グローバルな開発目標を達成するためには、緊急を要する平和維持活動だけでなく、長期にわたる復興支援として紛争に対応することで、国際社会がこの悪循環を断たなければならないと主張している。

 執筆陣は、十分な資金を持つ平和構築委員会を国連に創設することを求める、国連事務総長の報告書『より大きな自由を求めて』の提言を強く支持している。

 また、「武力紛争の予防または解決のための青写真はない」ことを認め、「しかし、武力紛争の脅威に取り組むためには、国際協力を大幅に拡大し、それを有効に進めない限り、国際社会は基本的人権を保護し、集団的安全保障を前進させ、ミレニアム開発目標(MDGs)を達成することはできない」 と述べている。

 1990年以降、武力紛争の半数以上が開発途上国で起こり、そのうちの40%近くはアフリカ地域で発生した。報告書によると、これらの紛争では、病気や栄養失調で死亡する人が、爆弾や、弾丸や、銃剣によって死亡する人の数を上回っている。たとえば、スーダンのダルフール地域の乳幼児死亡率は、同国のその他の地域よりも3倍から6倍も高いことを報告書は指摘している。

 国が貧しいほど武力紛争に苦しむ可能性は高くなる。報告書は、1人当たり年間所得が250ドルの国が内戦へと突入する確率は、所得が600ドルの国の2倍に上ることを示している。しかし、執筆陣は「これらの国々が紛争のせいで貧しいのか、貧しいから紛争が起きたのかを明らかにしようとするのは、無駄であり、ほとんど意味をなさない」と述べている。「明らかなのは、貧困は、武力紛争を創り出し、半永久的に存続させる悪循環の一部であり、そして、武力紛争がさらに貧困を悪化させるということである。」

 健康、教育、所得水準に従って各国を順位づけした本報告書の人間開発指数(HDI)は、貧困と武力紛争には相関関係があることを裏付けている。「実際のところ、武力紛争は人間開発指数表の最下位へと向かう最も確実かつ最短の道の1つであり、また、そこに長くとどまることを示す最も強力な指標の1つである」と執筆者は語っている。HDI順位の下位32ヵ国のうち22ヵ国が、1990年以降に紛争を経験したことがある。

 報告書によれば、この悪循環はこれらの国々の住民だけでなく、すべての人々にとって脅威となる。「脆弱な国家が武力紛争へ突入した場合、それらの国々は、貧困国では暴力を長引かせ、富裕国では人々に安全保障上のリスクとなるテロ集団の生息地を提供することになる。」

 報告書は、紛争の脅威と、それが貧困と人間開発に与える有害な影響を即時に軽減し得る、いくつかの改善策を示している。

紛争のおそれのある国(conflict-prone)への援助。 「紛争のおそれのある国、あるいは紛争後の国への援助を止め、資金を枯渇させることは正当化できない。それは、当事国における人間の安全保障、ひいては世界全体の安全保障に悪影響を及ぼす。」 近年の紛争後の国々に対する1人当たり援助額は、ボスニア・ヘルツェゴビナの245ドルから、アフガニスタンのわずか40ドルまでと大きな開きがある。援助国は、援助全体を増額すると同時に、援助割り当ての条件、あるいは紛争のおそれのある国への拠出を削減する場合にはその理由について、透明性を高める必要がある。
集団的安全保障への総合的取り組み。最近発表された国連事務総長の報告書は、集団的安全保障への総合的取り組みに向けた戦略的枠組みを構築するために、平和構築委員会の設立を求めている。その取り組みの一環として、紛争直後の支援と長期的な復興への移行過程のための、長期的で予測可能な財政支援を目的とする国際基金が設立されるべきである。
地域のキャパシティの確立。現在緊急の優先課題は、財政支援や技術支援、後方支援を通じ、十分に機能するアフリカ連合の待機軍を整備することである。
小型武器流通の遮断。2006年の小型武器問題検討会議は、市場を規制して武力紛争地域への供給を抑制するための、包括的かつ強制力を持つ武器貿易条約に合意する機会を提供することになるだろう。
より透明性の高い天然資源管理。鉱物輸出に携わる多国籍企業は、紛争資金の調達を助け、また時として説明責任のある政府に悪影響を与えることもある天然資源市場の関係者として、貧困国における活動の透明性を高めるべきである。また各国は、英国政府の主唱によって開催されたアフリカ委員会が提唱した法的枠組みを優先的に整備すべきである。そして、それによって、米国の法律ではすでに施行されているように、多国籍企業の海外での不正行為が本国で確実に訴追されるようにすべきである。

以上

本報告書について: 1990年以来、「人間開発報告書」は国連開発計画 (UNDP) の委託を受けて毎年作成され、独立した専門家チームが世界的に注目される主要な問題を検討してきた。学界、政界、市民社会の指導的立場の人々による世界的な諮問ネットワークが、本報告書で発表される分析と提言を支持するために、データ、見解、最善の慣行を提供している。人間開発の概念は、人間の進歩の尺度として1人当たり所得、人的資源開発、基本的ニーズを超えたところを見据え、人間の自由、尊厳、人間の活動などの要素、すなわち開発における人々の役割も評価する。『人間開発報告書2005』は、開発とは、単なる国民所得を上昇させることではなく、最終的には「人間の選択肢を拡大するプロセス」であると論じている。

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