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世界防災閣僚会議in東北 ヘレン・クラーク国連開発計画(UNDP)総裁 開会挨拶

2012年7月3日

開会式で挨拶をするクラーク総裁

開会式で挨拶をするクラーク総裁


世界防災閣僚会議in東北
ヘレン・クラーク国連開発計画(UNDP)総裁 開会挨拶
(2012年7月3日(火)宮城県仙台市)


日本国総理大臣、野田佳彦閣下
外務大臣、玄葉光一郎閣下

本日この重要な会議で、みなさまにご挨拶できることを大変光栄に思います。最初に主催者のみなさまの温かいおもてなしに心より感謝申し上げます。また、日本政府の災害リスク軽減と復興における強力なリーダーシップに敬意を表します。

玄葉外務大臣は、先に開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)において、防災分野で途上国に対し今後3年間で30億米ドルの支援を行うという日本のコミットメントを表明されました。自らが困難な状況にある中、このような寛大な支援は大きな賞賛に値します。

どの国も自然災害から免れることはできません。しかし、災害の衝撃と混乱に耐えられるだけの十分な備えが市民とコミュニティにあれば、被害を大幅に軽減できることを私たちは知っています。

今回の国際会議は、強靭な社会を築き、地方、国、地域の各レベルにおいて災害リスク軽減を主流化するための方策について議論することを目的としています。同時に、2015年に期限を迎える「兵庫行動枠組」に続く、災害リスク軽減のためのアジェンダ策定に向けた協議プロセスの一部でもあります。この協議プロセスは、今年3月に国連防災戦略事務局(UNISDR)が始動させました。

わずか15か月前、日本は東日本大震災とそれに続く津波により深刻な被害を受けました。多くの命が失われ、コミュニティも壊滅的な打撃を受けました。その苦難の中、世界は日本と心を一つにすべく立ち上がりました。

私たちはまた、未曾有の危機に立ち向かう日本から多くを学びました。日本は長年、減災を政策の最優先課題とし、それに沿って行政組織と法制度の整備を進めてきました。日本は減災と復興において、幅広いステークホルダーと市民を巻き込んだ参加型のアプローチをとっています。また国内のあらゆる行政レベルで災害対応能力の強化に取り組んでいます。このような充実した備えにより、2011年3月の震災が国の発展を長期にわたり阻害するような事態には至らずにすみました。

本会議の開催を通じ、日本は自らの教訓を他国と共有し、災害リスク軽減と復興に関する世界的な議論に大いに貢献できます。

本日ここに集う多くの国は、甚大な自然災害により、生活、家族、コミュニティ、インフラ、経済に計り知れない打撃を被った経験を有しています。私たちはこうした国々が危機的状況から立ち直り、将来また起こりうる災害への備えと強靭さを高めるのを見届けてきました。

コミュニティの強靭性を高め、最貧層や社会的弱者が過度に被害を被ることのないように、これまでに何が行われ、これから何を改善できるのかを理解することが重要です。

私たちはまた、国境を越えて影響を及ぼすという災害の側面にも注意を払う必要がありますが、これは気候変動によって悪化の一途を辿っています。1998年に中南米とカリブ海を襲ったハリケーン・ミッチ、2004年のインド洋津波、アフリカの角およびサヘル地域で頻発する干ばつなどの大災害がこれに当たります。

従って、リスクを軽減し、強靭さを築くためには、共同の考察や分析、資源と能力の集約、国内ばかりでなく国境を越えた地域内での優良事例の共有が必要といえます。今回の会議がこの点で重要な役割を果たすことを期待します。

UNDPは80か国以上で、政府、コミュニティと協働しながら、災害リスク軽減と復興のための能力強化に努めてきました。UNDPにとり、このような強靭さを築くための取組みは、開発の成果を確固たるものとするために不可欠です。UNDPの防災・復興分野における取り組みは、昨年だけでも約60か国で成果をあげています。

このような取組みの一環として、UNDPは「兵庫行動枠組2005-2015」の実施促進を支援すると同時に、後継となる枠組みを支持し、ひき続きこれを支援します。2015年以降のポスト兵庫行動枠組の枠組みで、引き続き、あるいはより一層考慮されるべき重要な点は以下の通りです。

(1)災害リスク軽減を開発戦略の中心に据える  

持続可能な開発と災害リスクの軽減が密接な関係にあることは明白です。適切な政策と行動により、災害による影響は予測・管理・軽減が可能となります。

これを踏まえ、UNDPは持続可能な開発に関する議論と枠組みに、災害リスク軽減のコンセプトも含めることを提唱しており、直近ではリオ+20でもこのことを訴えました。災害リスク軽減への配慮は、ポスト2015開発アジェンダの形成と、新目標・ターゲットの設定に際しても有用です。ポスト2015開発アジェンダ策定に向けた議論のタイミングは、兵庫行動枠組2005-2015の後継となる優先課題の議論とも合致します。

強靭な社会を築くには、制度やネットワークを構築し、利用可能な知識や資源を拡充するための長期的な取組みが必要になります。ポスト兵庫行動枠組を策定するにあたり、日本の事例だけでなく、多くの有望な事例から私たちは学ぶことができます。

(2)復興過程で将来に向けた更なる強靭性を構築する

入念に計画された復興活動は、当面の復旧ニーズに応えながらコミュニティも変容させることで、開発への取組みについても立て直すことを可能とします。他方で、復興活動が適切に実施されない場合、将来の災害時に脆弱性と不平等が助長されることもあります。そのためUNDPは、災害に見舞われた途上国のより良い復興(build back better)を支援しています。2004年12月のインドネシア、アチェでの津波の際には、このアプローチが効果を発揮しました。

(3)国・地方レベルで災害リスク軽減が効果的に行われるよう、ガバナンス面での改革を行う

ガバナンスの質は、災害リスク軽減の戦略・政策・対応の成否を分ける重要な要因です。多くの国で国家政策の枠組みに災害リスク軽減を主流化し、行政組織や法制度を改善し、強靭性を構築するための環境を整備する取組みが行われています。

この取組みの多くは、災害への対応と備えの強化という重要な活動に重きを置いてきました。他方でこれまで、土地利用計画、建築基準、環境管理の改善といった予防的措置を通じた被災規模の縮小、脆弱性の軽減に向けた活動が注目されることはありませんでした。

ポスト兵庫行動枠組では、リスクを管理し最小化する効果的なガバナンスの重要性に踏み込むべきです。更に、地方レベルと都市における災害リスク管理、十分な防災能力と資源の確保、また枠組の範囲を開発・環境・気候変動等の様々なアジェンダや政策立案、制度構築や実施の諸側面にまで拡大すること等を検討する必要があります。

(4)分野横断的な課題に取組みを集中する

兵庫行動枠組は、持続可能なリスク軽減を実現するために多くの分野横断的課題に取り組む必要性を強調しています。これには参加、能力強化、ジェンダーへの配慮なども含まれます。

多くのハイリスク国は複数の危険にさらされており、各国はこれらの危険をすべて考慮したリスク軽減戦略をとる必要があります。ハリケーンと地震の危険に晒された国では、当然ながら両者への備えが必要です。昨年3月、ここ日本で起きた大震災では、3つの災害が相互に影響し、甚大な被害をもたらしました。

ポスト兵庫行動枠組の議論は、多くの国で対応が遅れているとされる防災分野における分野横断型の問題や課題へのより効果的な対処方法を検討する機会を提供します。UNDPは、国、地域、地球規模の各レベルでより効果的な能力強化に取組み、知識や経験の移転を仲介することができます。これには、三角協力、南南協力、コミュニティ間・国家間・都市間の協働が含まれます。

最後になりましたが、この会議を主催し、2015年に第3回世界防災会合を主催する意向を表明された日本政府に対し、改めて謝意を表します。

今日から始まる2日間の議論は、世界が「兵庫行動枠組から10年間」で得た成果をもとに、災害リスク軽減に関する新たなビジョンと行動へと歩を進めるうえでおおいに役立つことでしょう。これは最も困難な環境にあっても開発を持続させ、多くの命を守ることにつながるのです。