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『人間開発報告書2007/2008』刊行記念シンポジウム
「気候変動の危機に挑む」
(国連開発計画(UNDP)主催、北國新聞共催)


基調講演を行う
紺野美沙子UNDP親善大使

 2009年10月17日(土)、石川県教育会館において、『人間開発報告書2007/2008』刊行記念シンポジウム「気候変動の危機に挑む」(国連開発計画(UNDP)主催、北國新聞共催)が開催されました。このシンポジウムは、気候変動が開発途上国の人々に与える影響と、さらなる気候変動を防ぐために必要な施策を、地方自治体や市民レベルで検討するために、日本政府の支援を受けてUNDPが各地で企画・実施しているものであり、これが2回目の開催となります。今回のシンポジウムでは、紺野美沙子UNDP親善大使による基調講演に続き、地元で気候変動対策に取り組んでいる石川県庁、研究機関および市民社会とUNDPの代表が参加してパネルディスカッションが行われました。
 また、シンポジウムの開催日が、世界中で貧困削減に向けた人々の意思を立ち上がって表現する「スタンド・アップ・テイク・アクション」にキャンペーンの実施期間であったため、紺野親善大使が先頭に立ち、会場に集まった150人近い市民の方々とともに立ち上がり、貧困削減に向けた意思表示を行いました。


基調講演を行う紺野親善大使

基調講演
 シンポジウムの第一部は、紺野美沙子親善大使による基調講演が行われました。紺野親善大使は、これまでの海外視察で訪問した途上国のうち、東ティモール、モンゴル、タンザニアの3カ国における環境対策プロジェクトを取り上げ、各地の写真やエピソードを交えて紹介しながら、途上国の人々にとっての環境問題と、将来の気候変動が人々に及ぼす影響について語りました。東ティモールの紹介では、紺野親善大使がクイズ番組で獲得した賞金をもとに支援している植林事業を紹介し、地道な取り組みの大切さを訴えました。
 そして、「日頃の生活が、途上国の犠牲のもとに成り立っているかもしれないことをみなさんも考えてほしい。電気やガス、水道、そして綺麗で安全な水が当たり前な日本での生活だが、その一方で1日1ドル以下の貧困状態で暮らしている人たちが気候変動の深刻な影響を受けているということを忘れないでほしい」と呼びかけました。



藤則雄金沢大学・
金沢学院大学名誉教授

パネルディスカッション
 基調講演に続く第二部では、有識者によるパネルディスカッションが行われました。
 コーディネーターを務める藤則雄金沢大学・金沢学院大学名誉教授は、冒頭で、自身が石川県舳倉島で行っている環境調査から、今年春の舳倉島の気温が、20年前に比べ2℃も上昇していること、南に生息しているはずの動物が北陸の舳倉島でも確認されていることを報告し、石川県でもすでに気候変動とその影響が実際におこっていることを指摘しました。
 続いて気候変動に関する取り組みや政策について、各パネリストから発表が行われました。



八木浩治UNDP東京事務所
次席代表

 まず、八木浩治UNDP東京事務所次席代表は、気候変動が人々の生活に及ぼす影響について発表し、気候変動は中長期にわたり人間開発に影響することを説明しました。そして、こうした気候変動の影響から人々を守るためには、温室効果ガスの排出を削減する「緩和策」と、気候変動へ人々が適応できるよう支援する「適応策」の2つを実施する必要があると指摘しました。特に、気候変動の原因となる温室効果ガスを排出してきた先進国には大きな責任があり、国レベルだけでなく、地域からも積極的に気候変動対策を進めることが重要であると述べました。その上で、石川県が、自治体、研究機関、市民社会とともに伝統的な自然共生を推進していることに言及し、世界的なモデルとなるように、石川県の積極的な貢献を呼びかけました。
 最後に「個人レベルでの取り組みとともに、大幅な排出削減には技術革新が必要であり、そこに民間セクターの積極的な協力が期待される」と述べました。



あん・まくどなるど
国連大学高等研究所
いしかわ・かなざわ
ユニット所長

 続いて発表を行ったあん・まくどなるど国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット所長は、気候変動の適応について、「地域の現状を把握し、5年後10年後に向けてのシミュレーションをしながら適応していくことが重要だ」と参加者に呼びかけました。そして日本でも、気候変動の影響は無視できないものとなっており、すでに北方地域の農家では果樹の、南方地域の農家では農作物の品種改良を強いられていると指摘、「変化に対して適応していくことは非常に時間がかかる。高齢化、過疎化が進むと、適応することも難しくなる」と地方における適応の難しさについて報告しました。さらに、気候変動対策にもつながる取り組みとして、自らが携わっている里山・里海の研究を紹介しました。



水野裕志石川県環境部長

 次に発表を行った水野裕志石川県環境部長は、石川県における気候変動の現状と、県による取り組みについて説明しました。その中で、過去110年間の金沢市の年間平均気温を高い順から並べると、上位10年のうち7年が直近の10年間であることを報告しました。そして、石川県の温室効果ガス排出量の特徴として、民生、運輸、産業部門がそれぞれ3分の1程度を占めており、家庭を含む民生部門からの排出量の割合が高いことに言及し、家庭部門の排出削減を目指す事業として石川県が取り組んでいる「エコリビング」や「エコハウス」、そしてエコファンドへの預貯金、県産食材の購入やボランティア活動を行った家庭に付与する「エコチケット」などの事例を紹介しました。



大沢俊夫「NPO法人世界の
砂漠を緑で包む会」会長

 最後に、大沢俊夫「NPO法人世界の砂漠を緑で包む会」会長が、市民による環境・気候変動への取り組み事例として、中国・阿拉善のゴビ砂漠における植林活動について紹介しました。同組織による植林活動が、現地住民に雇用機会を創出し、貧困削減につながるだけでなく、緑化にも貢献していることを明らかにしました。そして、過酷な環境下でも諦めずに砂漠化防止、砂漠の緑化に努めた結果、同地域が中国政府の緑化モデル都市に選ばれたことを報告しました。最後に、「言語の壁を乗り越えるべく身振り手振りでの会話を通して行う植林は、環境に貢献するだけでなく、友情も育む事業だ」と会場の来場者に協力を呼びかけました。



左から藤名誉教授、まくどなるど所長、
八木次席代表、水野部長、大沢会長

 パネルディスカッションに続いて、来場者とのQ&Aセッションが行われました。参加者からは、各パネリストが取り組んでいる環境活動や、現在交渉が行われているポスト京都議定書の枠組み策定への課題などについて質問が寄せられ、積極的な意見交換が行われました。
 最後に、コーディネーターである藤名誉教授が、気候変動により、世界の貧困層がもっとも被害を受けることを強調し、「地球の歴史で見てみると、地球温暖化は2〜3℃では終わらない可能性がある。温室効果ガス削減に向けて、人々は個人の枠を超えて考え、英知を結集して行動をおこさなければならない」と締めくくりました。



来場者に活動紹介をする
市民団体

 また、当日会場では、地元石川県を拠点として活動している市民社会団体によるブース展示、活動紹介も行われ、市民との懇親を深めました。



会場来場者とともにスタンド・アップ

「スタンド・アップ・テイク・アクション」キャンペーンについて
 「スタンド・アップ・テイク・アクション」キャンペーンは、10月17日の「貧困撲滅のための国際デー」にあわせて貧困削減への意思をみなで立ち上がって確認するイベントです。今回のシンポジウムでは、紺野親善大使の掛け声にあわせて、会場の来場者全員が立ち上がりました。


注)10月22日の「スタンド・アップ・テイク・アクション」事務局による発表では、今回の「スタンド・アップ・テイク・アクション」キャンペーンの期間中(10月16−18日)に、世界中で立ち上がった人数が1億7300万人となり、ギネスブックの記録を更新したことが報告されました。