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2008年4月7日 ウ・タント国際会議場

イベント 2008年4月7日 東京
シンポジウム報告
第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)記念 国際シンポジウム
「アフリカセミナー:アフリカにおける持続可能なビジネスを目指して」

 4月7日、東京都渋谷区のUNハウス、ウ・タント国際会議場において、第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)記念 国際シンポジウム「アフリカセミナー:アフリカにおける持続可能なビジネスを目指して」(主催:国連開発計画(UNDP)、共催:読売新聞社、後援:外務省、協賛:住友化学株式会社)が開催されました。(プログラムはこちら)

1.本年5月に開催のTICAD IVは、現在の経済成長を持続的で、かつ貧困層にも恩恵が広くゆき渡るような支援を強化するための方策が重点事項のひとつとして討議される予定です。アフリカにおける民間セクターの発展は、持続可能な経済成長のみならず、ミレニアム開発目標(MDGs)達成にも必要不可欠です。本シンポジウムは、民間セクターとのパートナーシップを通じた開発推進に向けて政府と国連が果たすべき役割、そしてアフリカにおける企業のビジネスチャンスと課題を話し合うことを目的に開催されました。会場を埋めた参加者は、企業活動を通じたアフリカの開発課題への貢献という新たな可能性に耳を傾けました。


オラフ・ショーベンUNDP開発政策局長

2.シンポジウムの前半では、4月上旬に行われた G8環境・開発大臣会合での議論をふまえ、経済成長の原動力である民間の活力への期待を表明した別所浩郎 外務省経済協力局長に引き続き、オラフ・ショーベン国連事務総長補兼UNDP開発政策局長が、開発において民間セクターが果たす役割、および起業とガバナンス、市場と国家の関係について基調講演を行いました。
 ショーベン開発政策局長はまず、ケニアで起きた騒擾と治安悪化により貧困層がさらに不安定な状況に置かれた事例をあげ、貧困と法的な排除は表裏一体であることを指摘しました。そして、MDGs達成のためには個別の課題への取り組みはもとより、貧しい人々が直面する脆弱性に制度面から対処することの必要性を指摘しました。民間セクターは、雇用創出、税収の増加、貧困層への財とサービスの供給をつうじて経済成長に中心的な役割を果たすことができます。しかしそのためには、市場の発展を促すような環境を整備し、一定の規範を課しつつも競争を促進するような効果的な市場規制を施行する意思と能力を兼ね備えた政府の存在が欠かせません。とりわけ、貧しい人々が経済成長の機会を享受するためには、彼らの前にたちはだかる法律、制度、官僚主義の障壁を取り払い、彼らに経済的な市民権を付与する必要があります。そのためには政府機関、政策立案者、民間セクターが協働して、公平な秩序を創出しなければなりません。
ショーベン開発政策局長は、アフリカ各国をはじめとする開発途上国における経済的ガバナンスの実現に向けたUNDPの取り組みのひとつとして、貧しい人々の法的なエンパワーメントをテーマとした報告書の作成を紹介しました。まもなく発表されるこの報告書は、貧しい人々が直面する法的排除を、40億人という世界中の貧困層の共通課題と捉え、1)司法へのアクセス、2)財産権、3)労働権、4)企業の権利という、4分野への取組みの必要性を指摘しています。
さらにショーベン開発政策局長は、民間セクターを支援するUNDPの取組みとして、1)地元企業の振興と競争市場の整備を政策面から支援する、2)グローイング・インクルーシブ・マーケット(GIM:貧困削減のためのグローバル市場)やグローイング・サステナブル・ビジネス(GSB:貧困削減のための持続可能なビジネス)などのイニシアティブを通じて、民間投資家と連携してアフリカにおける包括的な市場開発を促進する、3)MDGsカーボン・ファシリティなどの市場メカニズムを活用した手法の開発を通じて、気候変動など地球規模の課題に対処する、といった具体的アプローチを紹介しました。

3.シンポジウムの後半では、伊熊幹雄 読売新聞東京本社編集員の司会により、大庭成弘 住友化学株式会社代表取締役専務執行役員、エリー・エリクンダ・エリネーマ・ムタンゴ タンザニア連邦共和国特命全権大使、岡田仁孝 上智大学比較文化研究所所長兼国際教養学部教授、村田俊一UNDP駐日代表、およびショーベン開発政策局長によるパネルディスカッションが行われました。
 冒頭のプレゼンテーションでは、まず大庭氏より、住友化学がWHOのロールバック・マラリア・キャンペーンへの参加が、タンザニア・アルーシャで地元企業と合弁による防蚊ネット製造事業につながったことが紹介されました。また同事業が、蚊の防除とプラスチック技術という同社のコア事業を通じてMDGs達成に、さらには無償技術供与を通じて現地企業の育成に貢献している成功事例であることが紹介されました。
また、タンザニアのムタンゴ大使は、希少金属やエネルギー資源などの豊かな地下資源を擁するアフリカは投資先としての戦略的重要性が高まっていること、製造業においても競争力のある生産性を保っていることを紹介しました。ムタンゴ大使は、日本企業にとってもアフリカは様々な機会と魅力を備えた投資先であることを指摘し、住友化学の事例が示すように、商業活動を通じて利益をあげながら開発課題や環境問題に取組むことも可能であると述べました。
 新興市場における企業活動を専門とする岡田教授はまず、グローバル化の進展によって、民間セクターが途上国経済において重要な役割と責任を持つようになったことを指摘しました。さらに岡田教授は、途上国における民間セクターの活動を分析するうえで、年間所得1,500万ドル未満(PPP:購買力平価換算ベース)の40億人を商業活動のターゲットと見なす、ボトム・オブ・ピラミッド、またはベース・オブ・ピラミッド(BOP)と呼ばれる概念を紹介しました。さらに、途上国における企業活動のなかでも特に、企業の社会的責任(CSR)とBOPを組み合わせた事業を、ヒンドゥスタン・ユニリーバなどの南アジアの事例を中心に解説しました。

 続いてパネリストによる討論と質疑応答が行われ、アフリカにおける民間セクターの振興と、ビジネスを通じた開発の推進を可能とするための方策について、パネリストから様々な意見が提示されました。なかでも、従来のアフリカのイメージを刷新し、また企業の投資判断を容易にするためにも、アフリカに関する正確な情報の必要性がパネリストおよび質問者から提起され、今後の課題として認識されました。

4.今回のシンポジウムは、TICAD IVを目前に控え、企業活動を通じたアフリカの開発課題への貢献の可能性について、時宜を得た議論の機会を提供しました。今後、日本の民間セクターおよび市民社会にとって、企業活動の場として、また旅行先としてアフリカがさらに身近なものとなり、アフリカ開発の重要性に対する日本の認識が益々高まることが期待されます。


パネルディスカッションの様子