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第5回UNDP職員リレーエッセイ「開発現場から」 UNDP本部・南南協力スペシャルユニット 山田真美さん

2012 年3月23日

ユニットが主催する南南協力エキスポでは、毎年南南協力の実務者に南南協力の成功例を展示してもらっています(右:筆者)。

ユニットが主催する南南協力エキスポでは、毎年南南協力の実務者に南南協力の成功例を展示してもらっています(右:筆者)。


アジアからの南南協力を通じて、アフリカの米生産を支援しています。内戦で農地が破壊されたリベリアでも、米の生産が広がっています。(C)Africa Rice Center (AfricaRice)

アジアからの南南協力を通じて、アフリカの米生産を支援しています。内戦で農地が破壊されたリベリアでも、米の生産が広がっています。(C)Africa Rice Center (AfricaRice)


南南協力は、アフリカの気候変動の問題に取り組む国々の間の経験交流にも役立っています。(C)UNDPアフリカ気候変動適応プログラム

南南協力は、アフリカの気候変動の問題に取り組む国々の間の経験交流にも役立っています。(C)UNDPアフリカ気候変動適応プログラム


UNDP本部・南南協力スペシャルユニットの山田真美です。今はUNDPの本部があるニューヨークで働いていますが、2008年まではJICA(国際協力機構)のさまざまな開発プロジェクトを途上国で実施してきました。今年で開発の仕事も21年目に入ります。

「南南協力」、英語ではSouth-South Cooperationという言葉は、日本ではあまり知られていないと思います。一般的な開発援助(ODA)は、先進国(北)から途上国(南)への支援ですが、一方で途上国同士の協力を「南南協力」と呼びます。実は、日本は「南南協力」を支援する先進国の草分けとして、広く国際社会から認識され、高い評価を受けています。

日本が南南協力を支援し始めたのは1975年からですが、もともとの考えは、日本が途上国に教えた技術を、その途上国を介して他の途上国に広めようとするものでした。日本が10の国に同じ技術を教えるより、既に日本の技術を習得した国が残りの9か国に教えた方が効率的だという考えからです。ちょうど同じ時期に、国連でも南南協力を促進していくことが合意され、そのための組織として、UNDPに南南協力ユニットが設置されました。

私が南南協力ユニットの存在を知ったのは2003年でした。その頃私は、南米チリの国際協力庁で、チリの南南協力を促進するための組織強化、人材育成の仕事をしていました。チリ政府代表団の一員として南南協力の国連会議に参加した時に南南協力ユニットの存在と、国連で南南協力が活発に議論されていることを知りました。開発の度合いや経験も全く違う先進国と途上国の協力では達成できないことを、南南協力では達成できるということを現場での経験で実感していましたし、またチリの南南協力をサポートする過程で、チリの組織や人材が南南協力の担い手としてたくましく立派に育っていくのを目の当たりにして、これはもっと世界中で推進しなければという思いでユニットに入ったのが4年前になります。

南南協力支援を日本や国連が開始した1970年代と比べると、南南協力の発展は著しいものがあります。途上国の中でも、アジアやラテンアメリカの国々は経済発展を遂げ、特に中国、ブラジル、インドなどはその南南協力の規模をどんどん拡大しています。アフリカでも、ケニアや南アフリカ共和国など、南南協力を実施している途上国も出てきています。

南南協力は、途上国の技術や知見を他の途上国に移転するという協力形態ですが、とても効果的な手法だと思っています。たとえば、南米のブラジルがアフリカのモザンビークに農業技術を移転するというのは、気候や自然環境が似通っているというメリットに加えて、同じポルトガル語を使って技術移転できるので、非常に効率的です。ラテンアメリカでも、スペイン語を共有し、似通った問題を抱えている国どうしで経験を共有することができるので、即効性のある改革が可能となります。また、先進国から受ける援助と違って、途上国同士の協力の場合「自分達にもできるかも」という気持ちが生まれます。お金持ちの国がやっていることはそう簡単にまねできないですが、同じような経済状態の国がやっていることならば、自分の国でもできると信じ、がんばろうという気になります。

また、以前私がいた南米コロンビアでは、地雷の被害に会う人が年間1000人を超えていました。日本がコロンビアに直接できることはあまりないため、同じような問題を抱えているカンボジアの地雷撤去や被災者のケアなどのノウハウをコロンビアに移転するのを日本がサポートしました。このように、南南協力は平和構築に貢献する可能性をも秘めていると思います。

南南協力のアクターが増え、平和構築をも含む開発分野でのその功績が認めらるのに伴い、最近では南南協力が開発の大きなフレームワークの中で議論されることが増えてきました。2011年11月に韓国の釜山で開催された「援助効果のためのハイレベル会合」では、「効果的な開発協力のためのグローバルパートナーシップ」を国際社会が形成することが合意されました。開発をより進めるために、さまざまなアクターとのパートナーシップを強化しようということで、その中でも途上国、特に近年著しい発展を遂げた途上国と先進国がタッグを組んで、貧困問題や環境問題などに取り組んでいこうというものです。

先進国の経済状態の悪化と、それに伴い開発援助資金が減少する中で、途上国の開発に貢献するという役割に期待が寄せられています。そんな中で特に注目されているのが、30年以上前から南南協力を継続して支援し、1990年代からはエジプト、タイ、チリ、ブラジルなど、12の途上国をパートナーとして位置づけ、南南協力を支援してきた日本です。

国連という立場から見ると、南南協力を通じて途上国の開発経験の共有を支援している日本は、途上国のみならずEU諸国やアメリカなどの先進国からも注目されています。南南協力ユニットとしては、日本の経験から学び、南南協力支援に乗り出す先進国がもっと増えてほしいと思っています。その意味で、国連システムの中で南南協力推進を担うUNDPと、実績のある先進国の日本が協力し、南南協力を支援することでいかなる効果があるのかということを実証し、広く国際社会にアピールすることができればと思います。

東日本大震災の後、日本はさまざまな国からの支援を受けました。日本がこれまで支援してきた途上国もたくさんの寄付をしてくれました。これは、開発援助等を通じて日本という国が信頼され、感謝されてきた証であると個人的に感じています。地道に途上国同士の協力を支援してきた日本は、欧米の先進国とは違った意味で、深い「つながり」を途上国と持っていると思います。南南協力をもっと開発に貢献できるものにするためにも、その経験と実績が高く評価されている日本がリーダーシップを取ることが、今まさに求められていると感じています。

南南協力に携わって21年目の今、これまで培ってきた途上国の現場での経験を生かし、南南協力を促進し開発に役立つものにするために、今自分が国連でできることは何なのか、日々考えながら仕事を続けています。

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山田真美(やまだまみ)
UNDP本部
南南協力スペシャルユニット

東京外国語大学在学中、アルゼンチンに留学。その後JICAの専門家として、チリの南南協力支援やコロンビアの平和構築支援に携わる。2008年10月、国連開発計画南南協力スペシャルユニット、パートナーシップ・資源動員チーフ。日本福祉大学大学院開発学修士。

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